晩春
1949年公開。20年以上前に一度見たきりで、今回じっくり見直そうと再見。
妻を早く亡くして、適齢期の娘と二人暮らしの笠智衆演じる父が、自分は再婚すると嘘をついて娘を嫁がせる、という話。
結婚するのが嫌だ、と泣いている娘の紀子。
あれ?こんな悲しい話だったっけ?というのが途中までの感想だった。しかし時代背景のことを考えたり、ラストあたりで父と娘の京都旅行の夜に、父が、「私はお父さんとずっと二人で暮らすのが幸せなんです」という娘の紀子を優しく説き伏せるのを見ると、こうするのが本当の愛情なんだろうなぁ、となんとか納得できた。笠智衆の演じる父の言葉が優しすぎた。
50年も前の映画なんだから、その頃とは世間の価値観がかなり変わってきているし、違和感は当たり前だろう。今なら、別に無理に結婚しなくても…と思う人もいるだろう。
ストーリーとは別のことで、晩春は小津作品の中でもことのほか構図とか、画面の美しさが際立っていたと思う。家の中、外、能を観劇するシーン、京都でのシーン、すべてが美しくて見惚れた。それに加えて、原節子の笑顔の素敵なこと!ハリウッド女優にもなんらひけをとらない気品と輝きがあった。ゴージャス!眩しいくらいの笑顔だった。彼女が一番美しく映っている作品ではないか、と思う。
18歳で初めて原節子を知り、25歳になる時には彼女のような女性になりたい、というのが自分の目標だった。結果は全然足元にも及ばなかったが、目標とした女優は間違っていなかったと改めて思った。日本が全世界に誇れる女優だと思う。生涯独身だったというのも、個人的にはシビれる。