fiorentinax's ブログ

自宅で作った料理や、見た映画の感想、旅行の思い出を記録に残そうと始めたブログ

岸辺の旅

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黒澤清監督作品。

3年前に自殺して亡くなった夫が、ある日突然現れ、その夫が3年間さまよいながら暮らした場所を妻と共に巡る話。

一見まったりした話なようでいて、やはり黒澤清監督、なにか暗く怖い世界が垣間見れる。

 

深津絵里さんは、平凡な、感情を押さえつつも内から込み上げるものを隠せない静かな女性の役をやらせたら秀逸だ。「悪人」や「永いひとりごと」もそう思った。

 

小松政夫さんが、あちらの世界の人を演じておられたが、さすが。どこか妙な雰囲気を体の端々から出しておられた。

 

あと印象に残った脇役が、蒼井優さん。

夫の不倫相手で、妻の深津さんと対峙するシーンがあるのだが、話の間とか喋り方、表情に妻に対する嫉妬や意地の悪い感じがすごく出ていて驚いた。短いシーンではあったが、彼女の演技力はすごいな。深津さんを喰っていた感もあった。

飢餓海峡

 

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内田吐夢監督。水上勉の小説が原作で、3時間3分の大作。

始まってすぐに画面に引き込まれた。

昭和22年、仮出所中の男二人が北海道で強盗殺人の後大金を奪いその家に火を放ち逃げる、その後三國連太郎さんが演じる犬飼と出会い、3人で逃げるのだが、その日に台風が北海道に上陸して…というくだり。

犬飼のギラギラした目をした必死な感じのものすごい野生感。なんだか面食らった。

3人で逃亡したはずが犬飼だけになって、後の2人は死体となって現れるあたりから、どうやって犬飼が逃げ切れるのか?ということに焦点が絞られてくる。

この事件の担当刑事が伴淳三郎さん。途中から高倉健さんが出てくるのだが、健さんのなんと男っぷりの良いことか!最初画面に現れた時はスーツ姿にドキッとした。

 

すっかり町の名士になった犬飼に2人が対面し、詰問していくのだが、またその時の犬飼のしらばっくれようが良い。観客も、もしかして人違いか?と思うかもしれない。

 

話に並行して出てくるのが、犬飼が事件を起こした次の日に会う娼婦の八重。八重の貧乏な実家の身の上話に同情して仲間から強奪した金の一部を八重に渡す犬飼。八重はこの時切ってやった犬飼の黒い爪を肌身離さず、上京してからもずっと持ち続ける。この爪の伏線のはり方が見事だった。そして左幸子さんのズーズー弁と演技の素晴らしさ!「日本昆虫記」の時も感動したが、左さんは本当にこういう役が上手い。

犬飼が八重と知り合うシーンから、犬飼に手をかけられるまでのシーンは迫真の演技と言える。居酒屋での八重も実際に存在したかのような女に思えた。

 

ラストに犬飼が、手錠かけられたまま船上から海へ飛び込む。最後まで自分を想ってくれた八重のもとへ行こうとしたのか、あれだけのことをしてのし上がった自分ならどうにか助かるかもしれない、と思いとび込んだのか、それはわからない。見終わってしばらく考えてしまった。

 

監督と役者の魂のこもった名作だ。見れて良かった。

 

 

 

豚と軍艦

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今村昌平監督1961年作品。

戦後の横須賀が舞台。アメリカ基地の米兵の残飯を養豚の餌にして一儲けしようとするヤクザの話が主体。そのヤクザに使われる下っぱのチンピラが長門裕之、恋人が吉村実子。

養豚を扱っているにしてはなかなか豚が出て来ないなぁ、と思っていたらなるほど、最後に大群が出てきてやっぱりね、と納得。インパクトあった。

 

関西にいると横須賀という土地がよくわからないのだが、やはり戦後の横須賀といえば米軍で、彼らのおかげで栄えていた様子がとてもよく分かった。アメリア人相手にほとんどの人が金儲けしたい、みたいにガツガツしていて、街もガサガサしている感じが画面から伝わってきた。

そんな街から抜け出して、恋人と違う土地で新しい生活をしようと必死で生きる吉村実子の若い肉体美と、若い日の長門裕之が眩しかった。

今村昌平監督にしてはまだ人間のドロドロした汚なさ、みたいなところの描写は控えめだった。しかし金欲しさに実の娘を無理やり数年で本国へ帰ってしまうアメリカ人の愛人にさせようとする母親が生々しかった。菅井きんさんが演じていたが、やはり上手い。

 

長門裕之が最後に便器に顔をつけて死ぬシーン、実際人が小便た後の便器に顔をつけさせるよう要求したらしいが、却下されたらしい。そりゃそうだろう。苦笑いしてしまう今村監督らしいエピソード。

 

 

 

キャスト・アウェイ

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ロバート・ゼメキス監督、2000年作品。

何度も見ているけど、最近はCSで見て感想を書いておこうと思った。

トム・ハンクスはものすごく好きな俳優ではないが、ハリウッドには絶対必要な役者さんだと思っている。

飛行機事故で無人島に1人流れ着き、4年の年月をなんとかして生き抜く。映画の70%くらいはほぼ彼の一人芝居だが、まったく退屈せずに見れる。途中から、見つけたバレーボールに顔を書いて名前をつけ、ボールを友達にして話しかけ、孤独を紛らわす様子もすごく上手い。

 

結果的にやっと脱出するのだが、帰ってみたら恋人は他の男性と結婚していて、子供もいた。彼女との再会、別れのシーンはとても切なかった。失うものがあるからまた得るものもあるのかな、と考えさせられるラストだった。

 

難しい役だったと思うけど、この役は彼以外には考えられない。ニコラス・ケイジもなくはないけど、ちょっとニュアンスが違う。トム・ハンクスはコミカルな演技はコメディアン出身だからお手の物だし、もちろん真面目な演技も出来る。ちょっと悲しげな顔は彼特有で、どんな映画の時も感情移入してしまう。自分も無人島で1人になったような気にさせられた。

 

パターソン

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ジム・ジャームッシュ、2016年作品。久しぶりに心酔した。
パターソンという町のバスの運転手、パターソンが日々の出来事をノートの書いているだけの単純な話。
役者、脚本、音楽、美術、すべてにおいてセンスが抜群に良い。昔「ストレンジャー・ザン・パラダイス」を見て衝撃を受け、この監督が好きだ!と
強烈に思ったその感覚を思い出した。
いろいろな人種を登場させ、その人たちをうまく融合させる。関係性は熱すぎもせず、薄すぎもせず、でも心地いい暖かさが人と人との間にあり、
それが日常化している。「こんな街に住みたいなぁ」と、思わせるような場所を作るのが上手いし、今回それが一番良い形で仕上がっていた気がする。
ジャームッシュのベスト3に入る作品、もしかしてベスト1かもしれない。

レンガつくりの町をパターソンが歩いている。そのショットがかっこよく、きれいで、で心をつかまれたが、家のモノトーンのインテリア、バーの雰囲気、ブルドッグ、優しい妻、どれを取っても雰囲気がものすごくよいし、やりすぎ感がないところがまたいい。
バスの乗客の何気ない話も面白いし、一番素晴らしいのパターソンの書く詩だ。単純な単語を並べているだけなのだが、一節一節が心に響いてくる。
詩のことは全然わからないけれど、美しい詩だと思う。

ラストに我らが長瀬正敏さんがすごくいい役で出演している。詩を書き溜めたノートを犬に粉々に噛みちぎられて、意気消沈で散歩にでたパターソンに
偶然出会った詩が好きで町を訪れたという日本人が新しいノートを渡す。この日本人が彼だが、このくだりが洒落ていて、ものすごく強い印象を残す。
新しい詩はこれからも新しいノートに書いて生まれる、というような前向きな感じ。ジャームッシュ監督の余韻の残し方はいつもさりげなく、主張がきつくない。そういうところもたまらなく好きだ。妻の描写もこの上なく素敵だった。こんな奥さんがいたら、なるほど秘密の詩も贈りたくなるだろう。

日本昆虫記

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1963年、今村昌平監督。

東北のある村に生まれたトメという女性の大正7年から昭和24年までの生き様。

 

名作だと聞いていたが、今回見るのが初めて。

自分が生まれる20年ほど前の日本は、こんなに貧しかったのだろうか?!ということに衝撃を受けた。田舎娘が上京して生き残っていくには、これほどまでにしなければならなかったのか?ウブな田舎臭いトメが、男に騙されたりしながら仕事を転々とし、新興宗教に入り、売春までして、どんどん金に汚いすれっからしになっていく。

そのドロドロした人間模様の描き方がリアルで、暑苦しく、今村昌平の真骨頂を見た気がした。

溝口健二監督の「赤線地帯」のほうがまだライトな感じがする。

春川ますみ露口茂、佐々木スミ江、北林谷栄などの脇役も素晴らしいが、左幸子の汚れ役と東北弁には拍手喝采をおくりたい。

すごい女優さんだ。

 

人間の汚いところを見せまくる衝撃的な作品だったが、見て良かった。ラストで娘が良い方に

向かって人生を生きていく、というのが救いがあって良かった。

 

考えてもムダさ

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イタリア映画祭でオンライン上映にて。

イタリア人の考えらしいタイトルからして面白い。

うだつの上がらない35才のパンクロッカーの男性が怪我をして、久しぶりに実家に帰ってみたら、家族はそれぞれ問題をかかえていた。

 

みんなめちゃくちゃで、何にもうまくいってないんだけど、それぞれに人生があり、それなりに一生懸命にやっている。

深く考えたら全然ダメなのだけど、まぁ人生そんな捨てたものじゃないな、と思えるよう、嫌味なく話をうまくまとめていた。