白痴
ドストエフスキー原作、ロシアでの話を札幌に舞台を移して、黒澤明監督が映画化。ちょっと設定に無理があったのか、撮影は難航して監督も途中で撮るのをやめたいと言ったらしい。
だからかどうか分からないが、なんか鬼気迫る映画だった。森雅之の繊細さ、三船敏郎の豪快さ、久我美子の品の良さ、でそれぞれ役柄にぴったりだったのだが、驚いたのは原節子の汚れ役。彼女の印象はやはり小津安二郎の映画の中での汚れのないきれいな心の女性だった。今回「白痴」の中では、そういった印象をまったく覆す情念の火がメラメラと目の玉に映っているような女性で、彼女から目が離せなかった。
実生活では、どちらかというとこういう情熱的なところを持たれてたんだろうな、と思った。
いったんは身をひいたけど、森雅之を目の前にして、自分か両家の令嬢か、どちらをとるの?
と言って美しい手を差し出して迫るシーン、
迫力あった。この屋敷でのシーンは、4人の顔の演技というか、目の演技だけで観客を惹きつけるような真剣さがあり、見応えがあった。
黒澤作品で唯一、キネマ旬報に入らなかった作品らしい。アクが強すぎたのか、原作からして映画にするのが難しすぎたのか、それは分からないが志村喬、千秋実、東山千恵子など、好きな俳優が脇役に出てきたり、個人的には楽しめた。
原作を読んでみようと思う。